銀行はいくら貸してくれる?融資決定の仕組みと判断基準
こんにちは!名古屋起業スタートビジョンラボです。
「事業を始めるには、いくら融資を受けられるんだろう…」「この金額を借りるって、無理なのかな?」
事業を始める、または拡大しようとするとき、誰もが最初にぶつかる壁が「いくらお金を借りられるのか?」という疑問です。
インターネットで調べても、「事業規模による」といった漠然とした答えしか見つからず、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、元金融機関の融資担当者が、実際に融資の上限額をどのようにして決めているのか、その判断基準と仕組みを解説します。
内容としては少々ややこしいですが、融資の「相場」を知り、あなたの事業計画に合った適切な融資額を見つけるためのヒントを見つけてください。
融資額の決定ロジック:「希望」ではなく「返済能力」と「妥当性」で決まる
融資額は、あなたの「希望額」で決まるわけではありません。
金融機関は、事業が将来生み出す「返済能力」と、融資額の「資金使途の妥当性」の二つの要素を厳しく審査し、融資額の上限を総合的に判断します。
そして、融資を決定する「融資判定基準」は一つだけではないという点が重要です。
1. 返済能力:事業が生み出す「利益」と「キャッシュフロー」
金融機関が最も重視するのは、「この会社は、借りたお金を余力をもって確実に返済できるか?」という点です。
融資額は、あなたが描く利益計画と、手元に残る現金の流れ(キャッシュフロー)によって決まります。
審査担当者の思考プロセス
担当者は、あなたの計画が返済と経営者自身の生活費の両方を十分に賄えるかを厳しくチェックします。
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返済の限界点: 月々の営業利益から生活費を差し引いた金額が、「月々の返済可能額」となります。
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例: 月々の営業利益が20万円で、経営者の生活費が20万円必要な場合、返済に回せるお金は実質ゼロと見なされます。(個人事業主の場合)
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融資額の上限: 金融機関は、その企業の「年間営業利益」の3〜6倍程度を融資額の上限の一つと見ることがあります。
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例: 年間営業利益が500万円の会社なら、1,500万円〜3,000万円程度が、「遅滞なく返済履行できる」と判断される妥当な金額の上限となります。
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2. 資金使途の妥当性:融資されたお金の「使い道」と事業への効果
融資されたお金が何に使われるのか、その使い道は融資額を決める重要な要素であり、「事業の成長に繋がるものか」「本当に必要なものか」が厳しくチェックされます。
融資は、返済能力という「会社の体力」と、資金使途の妥当性という「お金を使う目的」が両立して初めて実現するものです。
融資額の目安を把握する「借入金月商倍率」と「債務償還年数」
融資額が適正かどうかを判断する際、金融機関は「借入金月商倍率」と「債務償還年数」という二つの主要な指標を参考にします。
1. 借入金月商倍率:短期的な資金繰りの健全性
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一般的な目安: 中小企業の場合、「3〜5倍程度」であれば、返済に無理がないと判断されることが多いです。
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例: 月商100万円の会社なら、総借入額が300万円〜500万円程度が目安となります。
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この倍率が高すぎると、少しの売上減少で資金繰りが悪化するリスクがあると見なされ、新たな融資のハードルは上がります。
2. 債務償還年数:長期的な収益力と完済能力
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望ましい基準: 融資審査では、運転資金なら10年以内、設備資金なら20年以内に完済できる計画が望ましいとされます。
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この基準を超える場合、「返済に無理がある」と判断され、融資額の減額や見送りが検討されます。
融資額の裏側:なぜ2つの「利益指標」は矛盾するのか?
多くの経営者が抱く疑問として、「借入金月商倍率」と、融資額の目安とされる「年間営業利益の3〜6倍」という指標が、借入側から見ると矛盾しているように感じられます。
結論として、この2つの指標は「異なる目的」で使われており、矛盾は生じません。
金融機関は、この両方を総合的に見て判断しています。
指標の目的と役割の違い
具体的な事業事例で見る2つの指標の役割
融資額は、短期的な資金繰りの安定性と長期的な収益力の二つの視点から総合的に判断されます。
以下の2つの異なる事業を比較することで、この二重の評価軸の重要性が明確になります。
📊 借入上限額の目安(月商倍率 vs. 年間利益倍率)
指標が示す「矛盾」の真実
もし金融機関が一つの指標だけで融資を判断すると、以下の問題が生じます。
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A社(サービス業)の場合:年間利益基準で1,200万円借りると、借入金月商倍率は12倍(1,200万円 ÷ 100万円)となり、日々の資金繰りが極めて不安定だと見なされます。(長期は優良だが、短期で資金ショートのリスク)
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B社(小売業)の場合:月商倍率基準で1,500万円借りようとすると、年間利益の15倍となり、長期的な収益力から見て返済が不可能だと判断されます。(短期は安定だが、長期で利益不足のリスク)
この例から分かるように、金融機関は短期・中期・長期にわたり返済が滞りなく履行可能かどうかを慎重に判断しています。
結論:融資額決定の最終判断
金融機関は、「この金額なら余力をもって遅滞なく返済履行できるか?」という観点から、複数の判断基準をもって融資額が適正かどうかを見極めています。
短期的な安定性(月商倍率)と長期的な収益性(利益倍率)のどちらか一方に偏ることなく、事業の全体像を見て判断しているのです。
「希望額」ではなく「適正額」を見極める方法
あなたの事業にとっての「適正な融資額」は、希望ではなく、事業の「必要性」と「返済能力」という客観的な数字に基づいて決まります。
以下の3つのステップで、適正額を算出し、融資の妥当性をセルフチェックしましょう。
ステップ1:必要な資金の総額を算出する
まず、事業の立ち上げに必要な資金のすべてをリストアップします。
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初期費用: 設備購入費、内装工事費、物件取得費など。
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運転資金: 家賃、人件費、仕入れ費、広告宣伝費など、事業開始後2〜3ヶ月分の運転資金が必要です(理想的なのは6ヶ月分です)。
ステップ2:自己資金を差し引き、融資必要額を決定する
算出した総額から、あなたが用意できる自己資金を差し引きます。この残りの金額が、融資希望額の根拠となります。
ステップ3:事業計画から返済可能額と妥当性を算出する
策定した事業計画をもとに、希望する融資額があなたの事業規模に対して「返済可能で妥当な金額か」をチェックします。
1. 年間利益の算出(長期返済能力の確認)
月々の利益から年間利益を計算し、借入金がその何倍に収まるかを確認します。(長期資金の目安は年間利益の3〜6倍以内)
このケースでは1.17倍であり、目安の3〜6倍よりも遥かに低いため、長期資金基準で見て借り入れは問題ないと判断されます。
2. 債務償還年数の算出(完済までの期間確認)
「現在の利益で借金を完済するのに何年かかるか」を計算します。(運転資金の目安は10年以内)
運転資金の目安(10年以内)から見ても、返済期間は非常に短く、返済履行に全く問題がないと判断できます。
このように、ご自身の事業における売上高、経費、利益、減価償却費などを算出し、自己資金で賄えない残額が「返済能力に見合う適正額」であるかを
ある程度セルフチェックすることが可能です。
まとめ:希望額ではなく「適正額」を借りる
融資額は、あなたの希望だけで決まるものではありません。
事業の収益性、資金の使い道、そして経営者の返済能力を総合的に判断して決定されます。
融資を申し込む際は、「いくら借りたいか」だけでなく、「借りたお金をどう活かし、どう返済していくか」を明確に説明することが不可欠です。
名古屋起業スタートビジョンラボでは、お客様の事業計画を丁寧にヒアリングし、適正な融資額を算定するお手伝いをしています。
融資額についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

