経営セーフティ共済(倒産防)は「節税」の切り札か?
【税理士解説】小規模企業共済との違いと「2年ルール」の落とし穴
こんにちは!起業スタートビジョンラボです。
前回は「小規模企業共済」についてお話ししましたが、経営者の皆様からよくいただくのが
「経営セーフティ共済(倒産防止共済)とはどう違うの?」「どっちに入るべき?」というご質問です。
どちらも国(中小機構)が運営する共済制度であり、掛金を経費(または控除)にできる点では似ていますが、その「目的」と「節税効果の種類」は全く異なります。
また、経営セーフティ共済は、令和6年(2024年)10月の法改正により、これまでのような「入ったり辞めたり」を繰り返す節税スキームが封じられました。
このルールを知らずに安易に解約すると、痛い目を見ることになります。
この記事では、経営セーフティ共済の仕組みから、小規模企業共済との決定的な違い、そして最新の改正を踏まえた「正しい出口戦略」について、税理士の視点で徹底解説します。
1. そもそも「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」とは?
正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」。
本来の目的は、取引先が倒産した際に、連鎖倒産を防ぐための資金を無担保・無保証人で借り入れできるという「保険」のような制度です。
しかし、実務上は多くの経営者が「法人のための節税(利益の繰り延べ)ツール」として活用しています。
最大のメリット:掛金が「全額損金」になる
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掛金: 月額5,000円〜20万円(年間最大240万円)
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積立上限: 800万円まで
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効果: 支払った掛金を全額「損金(法人の経費)」として計上できます。
つまり、利益が出すぎた年に年払い(最大240万円)をすることで、その年の法人税を圧縮しながら、簿外に資産を積み立てることができるのです。
2. 「小規模企業共済」と「倒産防止共済」の決定的な違い
ここが最も混同しやすいポイントです。一言で言えば、「誰の税金を減らすか」が違います。
| 比較項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済(倒産防) |
| 誰のため? | 個人(社長・個人事業主)のため | 会社(法人)のため ※個人事業主も可 |
| 節税効果 | 所得控除(個人の所得税・住民税が減る) | 損金算入(法人の法人税が減る) |
| 資産の性質 | 社長個人の「退職金」積立 | 会社の「緊急予備資金」積立 |
| 解約時の受取 | 個人が受け取る(退職所得など) | 会社が受け取る(益金=売上扱い) |
| 元本保証 | 20年(240ヶ月)以上で100%戻る | 40ヶ月以上で100%戻る |
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個人の手取りを増やしたい・老後に備えたい → 小規模企業共済
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会社の税金を減らしたい・内部留保を作りたい → 経営セーフティ共済
基本的にはこの考え方で選びますが、両方加入することも可能です(ダブルでの節税効果があります)。
3. 加入前に絶対知っておくべき「2つの注意点」
経営セーフティ共済は強力なツールですが、安易な加入は禁物です。
注意点①:解約すれば「全額利益」として戻ってくる
これが「節税」ではなく「課税の繰り延べ(先送り)」と言われる理由です。
掛金を払った時は経費になって税金が減りますが、解約してお金が戻ってきた時は、その全額が「雑収入(利益)」として課税対象になります。
つまり、「解約する年に、同額以上の赤字(経費)」を作らなければ、単に税金を払う時期がズレただけで意味がないのです。
注意点②:【改正】解約後2年間は「経費にできない」
令和6年10月の改正により、「解約した後、再び加入しても、解約日から2年間は掛金を損金(経費)に算入できない」という制限が設けられました。
これまでは、「利益が出たから加入 → 赤字の年に解約して利益計上 → またすぐに再加入」というサイクルを繰り返すことができましたが、今後は「一度解約すると、再加入のメリットを得るまで2年待つ必要がある」ため、解約のタイミングをより慎重に見極める必要があります。
4. 損をしないための「出口戦略(解約タイミング)」
経営セーフティ共済を成功させる鍵は、「入り方」よりも「辞め方」にあります。
戻ってくる解約手当金(利益)を相殺できる、以下のようなタイミングで解約するのが鉄則です。
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役員退職金の支給時: 社長の退職金という大きな経費が発生するタイミングで解約し、益金を相殺する。
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大規模な設備投資: 新規事業や修繕などで大きな赤字が見込まれる年。
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経営悪化時: 予期せぬ赤字が出た年に解約し、赤字の補填に充てる(本来のセーフティネット機能)。
これら「出口」の計画がないまま満額(800万円)まで積み立ててしまうと、解約するにも税金がかかり、資金が塩漬けになってしまうリスクがあります。
まとめ:自社に合った「併用」と「出口」の設計を
結論となりますが、
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個人の節税なら「小規模企業共済」
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法人の節税なら「経営セーフティ共済」
どちらも優秀な制度ですが、特に経営セーフティ共済は「出口戦略」と「法改正」への理解が不可欠です。
「とりあえず節税になるから」と加入するのではなく、数年後の決算を見越して計画的に活用しましょう。
起業スタートビジョンラボでは、単なる加入手続きだけでなく、「あなたの会社は今入るべきか?」「いつ解約するのがベストか?」というシミュレーションを含めたトータルサポートを行っております。
節税と資金繰りでお悩みの経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

