【いまさら聞けない】プロパー融資とは?
元・金融機関の融資役席が語る、渉外担当者(営業店)と審査部の「攻防」のウラ側
こんにちは!起業スタートビジョンラボです。
昨日のコラム(PayPay銀行の保証協会付融資参入)で、「プロパー融資」という言葉が何度も出てきました。
経営者の方であれば、「プロパー融資は、銀行からの信頼の証だ」「いつかはプロパー融資を受けたい」と、一度は耳にしたことがあるかと思います。
しかし、「信用保証協会付融資」と「プロパー融資」が、具体的にどう違うのか?
そして、なぜ金融機関は、あれほどプロパー融資に消極的なのでしょうか?
この記事では、「いまさら聞けないプロパー融資」と題し、その教科書的な意味合いはそこそこに、金融機関の“内部”で、プロパー融資がどう扱われているのかを徹底解説します。
幸い、当事務所には金融機関で渉外(しょうがい:外回りの営業担当のこと)や融資役席を経験した職員が在籍していますので、今回は、その元・金融機関職員だからこそ語れる「渉外担当と審査部の“攻防”」といった、普段は絶対に聞けないウラ側にも踏み込みます。
昨日のコラムをまだご覧になられていない方は、こちらもどうぞご覧ください。 =【PayPay銀行の「保証協会付融資」参入で激変?】
「プロパー融資」とは何か?(おさらい)
まず、言葉の定義だけ簡単におさらいします。
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信用保証協会付融資:万が一、あなたの会社が倒産した場合、「信用保証協会」が銀行に借金を肩代わり(代位弁済)してくれる融資。
銀行側のリスクが低い(ゼロではないですが)「保険付き」の融資です。
- プロパー融資 (Proper Loan): 信用保証協会を一切使わず、金融機関が100%自らのリスクで、あなたの会社に直接融資することです。
(※"Proper" = 固有の、独自の、といった意味)
もしあなたの会社が倒産した場合、銀行は貸したお金を(担保がなければ)全額失うことになります。
だからこそ、プロパー融資は「金融機関が、あなたの会社の事業と将来性を“本気で”信頼している」という、最高の“信頼の証(あかし)”と言われるのです。
なぜプロパー融資は難しい?金融機関内部の「攻防」
「それなら、信頼してる先にどんどんプロパー融資をしてくれればいいのに」
そう思うかもしれませんが、金融機関の内部は、皆さんが思うよりずっと複雑です。
現場(渉外) vs 本部(審査部)の永遠の対立
金融機関の融資判断は、「現場の渉外担当(推進者)」と「本部の審査部」という、二つの異なる役割の“攻防”によって成り立っています。
これは「善悪」ではなく、「アクセル」と「ブレーキ」の役割分担です。
1. 現場の渉外担当(アクセル役)
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ミッション:融資を実行すること(推進)。顧客と関係を築き、将来性を見出すこと。
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ホンネ: 「この社長は本当に熱意があるし、事業も伸びている」 「なんとか“保証協会なし”のプロパー融資で、ウチの銀行をメインバンクとして使ってもらいたい!」 「信頼の証として、プロパーを提案したい!」
渉外担当者は、決算書の数字だけでなく、社長の人柄や事業の将来性(=定性面)を見ています。だからこそ、リスクを取ってでも応援したいと考えます。
2. 本部の審査部(ブレーキ役)
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ミッション:預金者から預かった大切なお金を守ること。焦付き(貸し倒れ)を未然に防ぐこと(リスク管理)。
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ホンネ: 「現場は『情熱』とか言うけど、決算書のこの数字(定量面)はどう説明するんだ?」 「万が一の時の担保(保全)は? なぜ保証協会を使わない?」 「『いかに焦付きを発生させずに返済履行できるか』を判断するのが我々の仕事だ」
審査部は、現場とは“別の視点”から、冷静に「リスク」を判断します。
彼らにとって、情熱よりも「客観的な数字」と「保全(担保)」がすべて。これは彼らの「善管注意義務」として当然の機能です。
プロパー融資の稟議(りんぎ)とは、この「アクセル(現場)とブレーキ(審査部)の真剣勝負」そのものなのです。
実際、当事務所の元・金融機関経験者の従業員も、当時の「プロパー稟議」をこう振り返ります。
(本人談)
「私も営業店で渉外と融資を担当していたので、渉外の苦労も融資の苦労も両方知っていますが、プロパー融資の書類を作成して本部の決裁が下りるまでの間は、本当に大変でした。
融資案件の相談から完了までの間、本部への事前相談の根回しも含め、営業店(現場)と審査部の間を何度も書類が往復します。
そのプロセスで、審査部(私の場合は課長から)から営業店に電話が入るんですが、これが毎回怖かったですね(笑)。
電話に出ると、開口一番『この書類作ったのはお前か?』『なんでこの数字を詰めてないんだ』『決算書をしっかり読み込んだのか』と、まずは軽い挨拶から。
そこから『3期分の実態バランス(※一過性の特利特損や焦付き・不良在庫等を控除、代表者個人・家族の資力まで含めた実質的な会社の決算データ)と償還能力算出表(※会社が持つ実質的な返済能力を分析した表)を、しっかり分析したのか!!』
『そもそも協会枠(※保証協会が使える枠)どれだけ残ってるのか確認したのか?』『枠残ってるなら何で協会付き融資で進めないんだ!!』
『他行の金利は? 担保状況は? 家族の資産は?云々...』と…。1回の電話で最大20分くらい詰問が続くこともありました。
この電話に出るのが本当に苦痛で、当時は胃薬が手放せませんでした(笑)。ここまで詰められるのか...と思いながら対応していましたね。
今となっては審査部の視点を学ぶ良い経験だったと思いますが、このやり取りこそが、まさに現場と審査部の攻防でした」
【ホンネ解説】なぜ審査部の課長は、そこまで厳しく追及するのか?
では、なぜ審査部の課長は、現場の担当者が胃薬を手放せなくなるほど、厳しく追及してくるのでしょうか。
単に性格が悪いから…では、もちろんありません(笑)。 彼らは彼らで、「審査部」としての重い責任(=善管注意義務)を背負っているからです。
審査部の最大のミッションは、「銀行の(=預金者の)大切なお金を守ること」、そして「そのリスクに見合った適正な収益(金利)を確保すること」です。
現場の渉外担当者が「この社長を応援したい!」という「情熱(アクセル)」で稟議を上げてきた時、審査部は「リスク管理(ブレーキ)」の視点から、以下の点を冷静にチェックします。
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「保全」は万全か?(最悪のケースの想定) 「協会枠残ってるなら何で協会付き融資進めないんだ!!」 これは、まさに保全の視点です。
「万が一、貸し倒れた時の“保険”(保証協会)が使えるのに、なぜあえてそれを使わず、銀行が100%リスクを負う(プロパーにする)その合理的な説明は?」
という、審査部としては当然の詰問です。
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「リスク」と「金利(リターン)」は見合っているか? 「他行の金利は?」 これも重要です。
「これだけのリスク(プロパー)を負うのに、他行より低い金利で貸すのは、リスクとリターンが見合っていない(銀行が損をしている)のではないか?」
と、収益性を厳しくチェックしています。
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渉外担当は、顧客の実態を本当に把握しているか? 「実態バランスは?」「生計費は控除したか?」
これは、「決算書の上辺の数字(キレイな数字)だけを見て、融資できると判断していないか?」「経営者の実質的な資産や生活費まで含めた、本当の返済能力(実態)をちゃんと分析した上で『大丈夫だ』と言っているのか?」という、渉外担当者の“分析の甘さ”を徹底的に突く質問です。
これらの厳しい「詰め」は、渉外担当者の見落としや「情」に流された判断を排除し、銀行全体としての融資判断の精度を上げるために、必要不可欠な「リスク管理プロセス」なのです。
金融機関は「プロパー融資」をどう捉えているか?
では、金融機関全体として、プロパー融資をどう捉えているのでしょうか。
それは、「他行に絶対に奪われたくない、優良な顧客を“囲い込む”ための、最強の戦略的武器」です。
プロパー融資は、銀行にとって「信頼の証」であると同時に、「リスクそのもの」です。
そのリスクを負ってでも貸す、ということは、
- 「この会社は、多少のリスクを負ってでも、メインバンクとして取引を深めたい」
- 「もしウチがプロパー融資を出さなければ、競合の〇〇銀行がプロパー融資を出して、この優良顧客を奪っていくかもしれない」
という、経営戦略的な判断が働いています。
金利収入(利益)と、貸し倒れ(リスク)を天秤にかけ、「利益が勝る」と判断された優良企業だけが受けられる、特別な取引なのです。
【有担保 vs 無担保】プロパー融資の“格”の違い
「プロパー融資=担保なし」と誤解されがちですが、それは違います。
プロパー融資にも「格」があり、審査部の「保全(担保)」に対する考え方が表れています。
1. 「有担保」プロパー融資(預金担保・不動産担保など)
これは、中小企業が受けるプロパー融資として、比較的多いパターンです。
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内容:信用保証協会は使わない。ただし、その代わりに「預金(定期預金)や不動産(土地・建物)」を担保として設定する。
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審査部のホンネ:「社長の事業は信じよう。だが、万が一の“保険”として、当行にある定期預金の一部もしくは、不動産の一部は押さえさせてもらう」
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特徴:金融機関側のリスクは、預金分や不動産の価値の分だけヘッジ(軽減)されています。
2. 「無担保・有保証」プロパー融資(経営者保証など)
信用保証協会も使わず、不動産もない。その代わりに「経営者個人の連帯保証」を求めるパターンです。
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内容:返済の担保は、会社の「信用力」と「経営者個人の資力」です。
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審査部のホンネ:「会社と経営者は一心同体。万が一の時は、社長個人として返済する覚悟(保証)は示してほしい」
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特徴:※近年は国の「経営者保証ガイドライン」により、この形は減らす方向性にありますが、決算内容が万全でない場合は、引き続き要求されるケースもあります。
3. 「無担保・無保証」プロパー融資(真のプロパー)
これこそが、プロパー融資の頂点であり、経営者が目指すべき「王様」です。
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内容:保証協会も、不動産担保も、経営者保証も、一切なし。
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審査部のホンネ:「この会社の『事業収益力』と『財務体質』そのものが、最強の担保だ。何も要らない」
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特徴:金融機関が100%丸裸でリスクを負います。返済の担保は、あなたの会社の「圧倒的な信用力(=稼ぐ力)」のみです。
渉外担当者が「無担保・無保証でプロパーを!」と稟議を上げても、審査部からは
- 「保証は当然取るんだよね?」
- 「協会枠が残ってるでしょ!」
- 「まずは有担保から始めるのがセオリーでしょ!」
という熾烈(しれつ)な“攻防”が繰り広げられる、最もハードルの高い融資です。
プロパー融資は「勝ち取る」もの
このように、プロパー融資は「お願いします」と要求して簡単に通るものではありません。
日々の経営活動を通じて、「この会社なら、リスクを負ってでも貸したい」と金融機関に思わせ、「勝ち取る」ものです。
そのためのステップは、
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まずは「信用保証協会付融資」で取引をスタートする。
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「遅延なき返済実績」と「連続した黒字決算(最低3期)」という、圧倒的な“実績”を作る。
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渉外担当者と密に業況報告を行い、「この社長は信頼できる」という“定性面”の評価を得る。
この3つが揃った時、渉外担当者は「今こそ審査部と戦える!」と判断し(胃薬を握りしめながら)、あなたのために「プロパー融資」という武器を手に取ってくれるのです。
まとめ
今回は、「プロパー融資」について、その内部の力学やホンネを解説しました。
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プロパー融資とは、銀行が100%リスクを負う「信頼の証」である。
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銀行内部では、プロパーを推進したい「現場(渉外)」と、リスクを管理したい「審査部」の“攻防”が常にある。
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審査部は「悪」ではなく、「ブレーキ役」という健全な機能を果たしており、現場の担当者はその「攻防」の中で(胃が痛くなるほど)板挟みになっている。
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プロパー融資にも「有担保」「有保証」「無担保・無保証」という“格”があり、頂点は「無担保・無保証」である。
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プロパー融資は「要求」するものではなく、圧倒的な「実績」と「信頼」で「勝ち取る」ものである。
あなたの会社がプロパー融資を勝ち取るためには、その前提となる「圧倒的な実績」=「信頼される決算書」が不可欠です。
私たち税理士は、その決算書作りと、金融機関との長期的な財務戦略を立案する「財務部長」として、あなたと伴走します。
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