PayPay銀行の「保証協会付融資」参入で激変?

【未来予測】ネット銀行が、地銀・信用金庫の“聖域”を壊す日

 

こんにちは!起業スタートビジョンラボです。

2025年10月1日、一つの大きなニュースが金融業界を駆け巡りました。

それは、「PayPay銀行が、東京都の制度融資(信用保証協会付融資)の取り扱いを開始した」というものです。

 

「え? PayPay銀行って、普段の振込や決済で使うだけじゃないの?」

「ネット銀行が、ついに“本格的な”事業融資に参入してきたってこと?」

その通りです。

 

これは、私たち創業者や中小企業経営者にとって、「資金調達の選択肢が劇的に増える」という朗報であると同時に、これまで地域の資金調達を支えてきた地銀(地方銀行)や信用金庫(信金)、信用組合(信組)にとって、「最大の脅威」が出現したことを意味します。

この記事では、このPayPay銀行の動きが、今後のオンラインバンク(ネット銀行)での事業融資にどのような可能性をもたらし、特に信用金庫(信金)や信用組合(信組)の「プロパー融資」への姿勢にどう影響を与えうるのか、その未来を予測・解説します。

 


 

ネット銀行(オンラインバンク)が持つ「圧倒的な強み」

 

これまで、事業用の融資といえば「日本政策金融公庫」か、地元の「地銀・信金・信組」の窓口に行って、担当者と面談するのが“当たり前”でした。

しかし、ネット銀行が本格参入すると、この「当たり前」が覆されます。

彼らの強みは、大きく分けて2つあります。

 

「利便性」と「スピード」の圧倒的優位性

 

私たち事業者が、従来の金融機関に何を感じていたでしょうか。

「窓口の営業時間が短い」「手続きや書類が煩雑」「審査に時間がかかる」… これらは、日々の経営に追われる私たちにとって大きなストレスでした。

ネット銀行は、このすべてを解決する可能性があります。

  • 24時間365日、オンラインで申込完結

  • 店舗訪問や、担当者との(不要な)面談が不要

  • AI審査の導入による、圧倒的な審査スピード

 

忙しい経営者にとって、「利便性」と「スピード」は何物にも代えがたい価値です。

 

「FinTech(データ)」を活用した新しい審査

 

ネット銀行の本当の強みは、こちらです。

従来の金融機関が「決算書」「担保」「保証人」を重視する審査(=過去の静的なデータ)を行ってきたのに対し、ネット銀行は「FinTech(フィンテック)」を駆使します。

例えば、PayPay銀行なら、

  • 日々の「入出金データ(トランザクション)」

  • (もし連携していれば)PayPay決済やPOSレジの「売上データ」

これらの「リアルタイムで動くデータ(動的なデータ)」をAIで分析し、「決算書は赤字だが、日々の売上(キャッシュフロー)は好調だ」といった、従来とは全く異なる新しい与信(信用)判断ができるようになるのです。

 


 

衝撃を受ける地銀・信用金庫の「存在価値」

 

さて、PayPay銀行が取り扱いを始めたのは「信用保証協会付融資」です。

これは、万が一返済が滞っても、保証協会が肩代わりしてくれるため、金融機関側のリスクが低い商品です。

 

ここで、考えてみてください。

地銀や信金・信組が、これまで中小企業向け融資の「主力商品」として扱ってきたのも、この「信用保証協会付融資」です。

つまり、ネット銀行と地銀・信金が「全く同じ商品(保証協会付融資)」で、真っ向から競合することになったのです。

 

「利便性」 vs 「地域の関係性」

 

私たち事業者は、どちらを選ぶでしょうか。

  • A(ネット銀行): 商品は同じ。オンラインで申込完結。審査が速い。

  • B(地銀・信金): 商品は同じ。店舗に行き、書類を書き、担当者と面談し、審査を待つ。

 

日々の入出金データ(FinTech)まで持っているネット銀行Aが、審査スピードでBに負ける理由は少ないでしょう。

多忙な経営者がAを選ぶのは、ごく自然な流れです。

 

これまで地銀や信金が強みとしてきた「地域密着の“関係性(リレーションシップ)”」という武器は、「利便性」と「スピード」という圧倒的な価値の前では、急速にその価値を失っていく可能性があります。

 


 

プロパー融資の“現実”と、現場のジレンマ

 

「保証協会付融資」という“安全な土俵”がネット銀行に奪われつつある今、地銀や信金・信組の「存在価値」が問われている、と書きました。

「じゃあ、彼らが“リスクを取って”プロパー融資をすればいいだけじゃないか」

そう考えるのは簡単ですが、現場はそれほど単純な話ではありません。

 

私たち事業者が、「金融機関はプロパー融資をしてくれない=悪だ」と一方的に見るのは、実は大きな間違いなのです。

 

現場の渉外担当者は「プロパーで貸したい」と思っている

 

まず知っておいていただきたいのは、現場の渉外担当者(融資担当者)の多くは、むしろ「この会社を信じて、プロパー融資で応援したいと本気で考えているケースが多い、ということです。

実際、過去に金融機関で融資(役席)担当をしていた当事務所の職員も、当時の現場の苦悩をこう語っています。

 

『渉外担当者は、日頃から社長とコミュニケーションを取り、その事業の将来性や『情熱』を肌で感じています。

だからこそ、『この会社を信じて、プロパー融資(=信頼の証)で応援したい』と本気で考えるんです。

しかし、その稟議(りんぎ)を上げても、『本部審査部』からなかなか決裁が下りない。

なぜなら、審査部の担当者は、原則としてお客様と直接会うことがないからです。

 

審査部は、現場の渉外担当者が感じている『社長の人柄』や『オフィスの活気』といった、“定性的な情報(=数字以外の熱量)”をインプットされていません。

審査部が判断の拠り所にできるのは、決算書や試算表といった“客観的な数字”だけです。

預金者から預かった大切なお金を守るため、審査部は『万が一、この数字が計画通りにいかなかったら?』と、冷静にリスクを判断するのが仕事です。

それゆえ、渉外担当者が『この社長の情熱は本物です!』といくら稟議書で力説しても、審査部からは『その“情熱”が、どうやって“数字(返済)”に繋がるのか、客観的なデータで説明しろ』と、厳しく差し戻される。

この【現場(渉外)が知る“定性的な熱量”】と【本部(審査部)が求める“客観的な数字”】との間に横たわる深い溝。 これこそが、渉外担当者が抱える“現場と審査部の壁”であり、当時は非常に苦労しました。』

 

「審査部」の役割はリスクを排除すること

 

では、その「本部審査部」は、単にリスクを恐れる“臆病者”なのでしょうか?

決してそうではありません。

審査部の重要な仕事の目的は、「いかに焦付き(貸し倒れ)を発生させずに、最後まで返済履行してもらえるか」を、現場とは“別の視点”から冷静に判断することです。

 

現場の渉外担当者は、社長の情熱や事業の将来性といった「定性面(未来)」を見て、「アクセル」を踏もうとします

一方、本部審査部は、決算書や担保状況といった「定量面(過去・現在)」を見て、「本当に問題はないか」と「ブレーキ」をかける役割を担っています。

現場が「やりたい」と推進する案件であっても、審査部が「別視点」から客観的にリスクを判断し、厳しく見るのは、金融機関という組織として当然の機能なのです。

 

「顧客メリット」を考えた結果、保証協会付融資だった

 

さらに、もう一つの重要な現実があります。

それは、プロパー融資(金融機関が100%リスクを負う)は、そのリスク分、当然ながら「金利が高く」設定されるということです。

 

当事務所の元金融機関職員も、『プロパー融資の金利(例:2.95%)』と、『保証協会付融資の金利(例:1.4%)+保証料(例:1.15%)』を比較した場合、結果的に“保証協会付融資”の方が、お客様(事業者)のトータル負担が安くなるケースも多かった」と言います。

つまり、金融機関側がプロパー融資に消極的だったのは、単に「リスクを取りたくない」という怠慢だけでなく、

  1. 「審査部」という組織的なブレーキ(健全なリスク管理)

  2. 「顧客の金利負担」を考えた際の合理的な判断

という、複雑な背景があったのです。

 


 

信金・信組に残された「唯一の道」

 

しかし、時代は変わりました。 PayPay銀行の参入は、この「現場の苦悩」や「既存の常識」を、根底から覆す可能性を持っています。

これまでは、「保証協会付融資」という“安全な土俵”の上で、顧客メリットを考えて金利の比較(プロパー vs 保証協会)をしていれば良かったかもしれません。

しかし、その“安全な土俵”自体に、利便性とスピードで勝るネット銀行が乗り込んできたのです。

 

「保証協会付融資」という主力商品がネット銀行に奪われていくのであれば、地銀・信金・信組が生き残る道はどこにあるのでしょうか?

それは、やはりネット銀行には(まだ)真似できない領域、すなわち「プロパー融資」しかありません。

 

  • ネット銀行が「データ(FinTech)」で効率的に審査するなら → 金融機関は「足で稼いだ情報(定性評価)」で、データの裏にある経営者の情熱や、事業の将来性を評価する。

  • ネット銀行が「保証協会付融資」という“安全な商品”を売るなら → 金融機関は「プロパー融資」という“リスクを取った商品”で、本気で顧客の未来に踏み込む。

 

これこそが、彼らに残された「存在価値」です。

「ウチはあなたの事業の将来性を信じているから、保証協会なしで貸します」 この一言が言えるかどうか。その覚悟が問われています。

 


 

もし変わらなかったら?「時代に取り残される」未来

 

もし、この期(ご)に及んでも、地銀や信金・信組が「プロパー融資は怖い」とリスクを避け続け、「保証協会付融資」ばかりを売り続けたら、どうなるでしょうか。

答えは明白です。時代に取り残されます。

 

事業者から見れば、「PayPay銀行より手続きが面倒で、審査も遅いのに、商品は同じ(保証協会付融資)」という、選ぶ理由のない金融機関になってしまいます。

「地域密着」という看板を掲げながら、実際にはリスクを取らず、利便性でも劣る…。

そうなれば、優秀な経営者ほど、ネット銀行や、本気でリスクを取ってくれる他の金融機関(あるいは日本政策金融公庫)へと流出していくでしょう。

 

PayPay銀行の参入は、事業者にとっては「選択肢が増える」という大きなチャンスです。

そして、地銀・信金・信組にとっては、「自分たちの存在価値は何か?」を厳しく問われる、“変革の最終通告”なのです。

 

 

まとめ

 

今回のPayPay銀行のニュースは、単なる「新商品」のお知らせではありません

日本の事業融資が、「対面・書類」から「オンライン・データ」へと、不可逆的にシフトしていく「鐘」が鳴ったことを意味します。

 

  • ネット銀行は、「利便性」と「FinTech(データ)」を武器に、保証協会付融資のシェアを奪いに来る。

  • 地銀・信金・信組は、同じ土俵では勝てない。生き残る道は、彼らにしかできない「真の関係性金融(=リスクを取るプロパー融資)」への回帰である。

  • ただし、金融機関の内部にも「現場」と「審査部」の役割分担や、顧客の金利負担を考えた「合理的な理由」が存在し、単純な「良し悪し」で語るべきではない。

 

経営者の皆様も、「なんとなく地元の信金だから」という理由でメインバンクを選ぶ時代は終わりました。

「スピードと利便性のネット銀行」「創業支援の日本政策金融公庫」「そして、本気でリスクを取ってくれる地銀・信金」 これらを、自社のフェーズに合わせて賢く使い分ける「財務戦略」が、ますます重要になっていきます。

私たち起業スタートビジョンラボでは、このような目まぐるしく変わる金融環境の中で、クライアント様の会社にとって今どの金融機関がベストなのか、という「財務戦略」の立案からサポートしています。

創業したての方向けに、日本政策金融公庫をはじめとした創業融資はもちろんのこと、幅広くトータルサポートを承っており、融資についてのご相談からご提案までさせていただいております。気になる方は是非、お気軽にご連絡下さい。

 

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