【資金繰り表の作り方 第3回】「未来予測」の立て方
融資審査を左右する売上予測の”根拠”を税理士が解説
こんにちは!起業スタートビジョンラボです。
前回の第2回では、日本政策金融公庫のテンプレート(エクセル)を使い、預金通帳などから「過去の実績」を入力する方法を解説しました。
過去の数字がピタリと合ったことで、少し自信がついてきたのではないでしょうか?
しかし、本当の勝負はここからです。融資審査で最も重要視される「未来予測(計画)」の作成です。
「未来の売上なんて、どうやって予測すればいいんだ…」
「売上予測が高すぎると『甘い』と言われそうだし、低すぎると『返済できない』と思われそうで怖い」
「どんな経費を、どれくらい見積もればいいか分からない」
このように、真っ白なエクセルの未来の欄を前に、手が止まってしまっていませんか?
全4回シリーズの第3回となる今回は、資金繰り表の「心臓部」である「未来予測」について、融資担当者を納得させる具体的な立て方と、売上予測の「根拠」の示し方を徹底解説します。
この記事を読めば、あなたの「未来予測」が単なる”願望”から、説得力のある”計画”へと変わり、融資審査の通過率を大きく高めることができます。
「未来の計画」の立て方に悩んでいるあなたは、ぜひ最後までじっくりお読みください!
第一回目のコラムはこちらをクリック:【資金繰り表の作り方 第1回】融資審査の鍵となる準備
第二回目のコラムはこちらをクリック:【資金繰り表の作り方 第2回】エクセル記入例つき入力解説
なぜ「未来予測」が融資審査で最も重要なのか?
日本政策金融公庫の担当者は、なぜ「未来予測」をこれほど厳しくチェックするのでしょうか。
それは、彼らの立場になれば明確です。
審査担当者は「返済の実現性」を見ている
融資担当者の最大のミッションは、「貸したお金が、利息を含めて、計画通りに全額返済されること」です。
彼らは「過去」にではなく、「未来」に対してお金を貸します。
したがって、あなたが作成した「未来予測」は、融資担当者にとって「この事業者は、貸したお金をこのように使って、これだけ利益を出し、その結果、毎月きちんと返済できます」という「約束(返済シナリオ)」そのものなのです。
このシナリオに説得力があるか、実現可能性が高いかを判断する唯一の材料が、あなたの作成する「未来予測」なのです。
「過去の実績」は「未来予測」の土台
第2回で作成した「過去の実績」は、この「未来予測」の土台となります。
過去の実績(土台)と、未来の予測(計画)がかけ離れていると、「なぜ急に売上が2倍になるのか?」と、計画全体の信頼性が失われてしまいます。
「過去の実績(土台)」の上に、「根拠のある予測(計画)」を積み上げていくことが、融資審査を通過する資金繰り表の鉄則です。
(※創業融資で過去の実績がない場合は、後述する「創業計画書」や「市場調査」が土台の代わりとなります)
【最重要】「売上予測」の具体的な立て方と根拠
資金繰り表の作成で、誰もが最も悩むのが「売上予測」です。
ここで「希望的観測」や「どんぶり勘定」をしてしまうと、面談で必ず厳しく追及されます。
NG例:希望的観測や「頑張ります」は通用しない
まず、融資審査で絶対に通用しないNG例を見てみましょう。
-
「なんとなく、月100万円くらいは売れると思う」
-
「競合のA店が繁盛しているので、同じくらいはいくはず」
-
「営業を頑張るので、毎月10%ずつ成長させます」
これらはすべて「願望」であり、「予測」ではありません。
融資担当者が知りたいのは、「なぜ、その売上高が達成できると言えるのですか?」という「根拠(ロジック)」です。
OK例:売上を「計算式」に分解する
説得力のある売上予測を立てる唯一の方法は、売上を「計算式」に分解することです。
(例)名古屋市でカフェを開業する場合
-
計算式:
売上 = (客単価 × 客数) × 営業日数 -
分解:
-
客単価:1,000円(ランチ平均単価800円、カフェ平均単価1,200円と想定)
-
客数(平日):30人(席数20席 × 回転率1.5回と想定)
-
客数(休日):50人(席数20席 × 回転率2.5回と想定)
-
営業日数:平日22日、休日8日
-
-
予測計算:
-
平日売上:(1,000円 × 30人) × 22日 = 660,000円
-
休日売上:(1,000円 × 50人) × 8日 = 400,000円
-
月間売上予測 = 1,060,000円
-
このように、売上予測を「106万円」という一つの数字ではなく、「客単価1,000円 × 客数...」という計算式で示すことが重要です。
「計算式」の数字を裏付ける「根拠」を準備する
次に、融資担当者は「なぜ客単価が1,000円で、客数が30人なのですか?」と質問してきます。
この「なぜ」に答える「根拠」を準備します。
客単価の根拠:
-
「近隣の競合店3店舗のメニューを調査した結果、平均単価が約950円でした(調査)」
-
「当店は少し高品質なコーヒー豆を使うため1,000円と設定しています(根拠)」
・客数の根拠:
-
「店舗前の通行量調査では平日1日500人が通行します(調査)」
-
「そのうちの6%(500人×6%)にあたる30人が来店すると見込んでいます(仮定)」
-
「この6%という数字は、飲食店の平均的な入店率のデータを参考にしました(根拠)」
「創業計画書(事業計画書)」を作成している場合、これらの分析はすでに行っているはずです。
資金繰り表の売上予測は、創業計画書に書いた「事業の見通し」と、必ず連動させてください。
(※可能であれば、近くの飲食店に入って何時から何時までの間にどれくらい人が入ったかをチェックできれば最高です。)
見落とし厳禁!「経費(支出)予測」の立て方
売上予測(収入)が立ったら、次に出ていくお金、「経費(支出)」を予測します。
経費の見積もりが甘いと、後で「こんなはずじゃなかった」と資金ショートの原因になります。
「固定費」と「変動費」に分けて考える
経費を予測するコツは、「固定費」と「変動費」に分けて考えることです。
1.固定費(売上に関わらず、毎月ほぼ一定で出ていくお金)
-
-
人件費(給与):役員報酬や従業員の給与。
-
家賃:事務所や店舗の家賃。
-
リース料:コピー機や車のリース代。
-
借入金返済(元金・利息):既存の借入返済額。
-
その他固定経費:水道光熱費の基本料金、通信費(電話・ネット)、顧問税理士報酬など。
-
これらは「過去の実績(第2回で作成)」を見れば、ほぼ正確な金額が予測できるはずです。
2.変動費(売上の増減によって、変動するお金)
-
-
仕入:売上予測に対する「原価率」で計算します。(例:売上予測100万円、原価率30%なら、仕入支出は30万円)
-
人件費(残業代・アルバイト代):売上が増えれば、その分増える可能性があります。
-
広告宣伝費:集客のために投じる費用。←こちらは変動費扱いが多いですが、毎月一定の個定額であれば固定費になります。
-
消耗品費:事務用品や備品など。←こちらも同上
-
創業者が忘れがちな「大きな支出」
毎月の経費以外にも、特定の月にだけ発生する「大きな支出」を見落とすと、一気に資金繰りが悪化します。
-
税金:
-
消費税(中間申告や本決算での納付)
-
法人税、事業税、住民税(中間申告や本決算での納付)
-
固定資産税(年4回など)
-
-
社会保険料:
-
労働保険料の年度更新(年に1回)
-
社会保険料の算定基礎届による金額変更(年に1回)
-
-
賞与(ボーナス):
-
従業員に賞与を支払う予定月(例:7月、12月)
-
-
設備投資:
-
(例:半年後に新しいPCを5台買い替える、など)
-
これらの支払予定月をカレンダーで確認し、資金繰り表の支出の部に、忘れずに計上してください。
エクセルテンプレートへの具体的な記入方法
売上と経費の予測ができたら、いよいよエクセルの「計画」欄を埋めていきます。
ステップ1:「売上予測(収入)」の記入
-
作成した「売上の計算式」に基づき、1ヶ月目、2ヶ月目…と入力します。
-
注意点:ここで入力するのは「売上が発生した日」ではなく、「現金が入金される日」です。
-
(例)4月分の売上(100万円)が、翌月(5月)末に入金される場合、資金繰り表の「収入」欄は、「4月」ではなく「5月」に100万円と記入します。
ステップ2:「経費予測(支出)」の記入
-
「固定費」を先に入力します。(家賃、給与、リース料など)
-
「変動費」を入力します。(仕入原価を売上予測の〇%で計算、など)
-
「忘れがちな大きな支出」(税金、賞与など)を、該当する月に忘れず入力します。
-
注意点:ここも「経費が発生した日」ではなく、「現金が引き落とされる日」が基準です。
-
(例)4月分の仕入(30万円)の支払いが、翌月(5月)末の場合、「支出」欄は「5月」に30万円と記入します。
ステップ3:「財務支出(今回の融資返済)」を忘れず記入
最も重要なポイントです。
日本政策金融公庫から「今回希望する金額」を借りられたと仮定して、その「返済予定額」を支出の部(財務支出)に必ず入力してください。
-
(例)300万円を5年(60回)で借りる場合。
-
毎月の元金返済(300万 ÷ 60回 = 50,000円)+ 利息(金利は2.5~3.0%(仮定)で計算してください)
-
この返済額を、融資実行の翌月(または翌々月)から、計画期間の最後まで入力します。
これを入れ忘れると、「融資返済をしても、お金が回る計画」であることを証明できません。
計画が赤字に…「資金ショート」を防ぐための調整
すべての予測を入力すると、エクセルが自動で「差引過不足」と「翌月繰越金(月末残高)」を計算してくれます。
「翌月繰越金(月末残高)」をチェック!
ここで見るべきはただ一つ。
「翌月繰越金(月末残高)」の欄が、一度でもマイナスになっていないか、です。
この残高がマイナスになる月があるということは、その月に「資金ショート(倒産)」することを意味します。
このような計画では、絶対に融資審査は通りません。
計画を見直す(融資希望額の調整)
もし残高がマイナスになる月がある場合、あなたの計画には問題があります。
-
パターン1:計画は妥当だが、一時的に赤字になる
-
(例)開業3ヶ月目に仕入が先行して赤字になるが、6ヶ月目には黒字化する。
-
対策:これこそが、あなたが融資を必要とする「根拠」です。「開業3ヶ月目に資金がマイナス50万円になるため、運転資金として100万円の融資が必要です」と説明できます。
-
→ 融資希望額を調整し、残高がマイナスにならない計画に修正します。
-
-
パターン2:計画期間中、ずっと赤字が続く
-
対策:これは、あなたの「事業計画そのもの」に無理がある証拠です。
-
売上予測が甘すぎないか?経費を削れるところはないか?ビジネスモデル自体を見直す必要があります。
-
まとめ(第3回の振り返りと第4回への予告)
全4回シリーズの第3回は、融資審査の最重要ポイントである「未来予測」の立て方を解説しました。
-
未来予測は、融資担当者に「返済の実現性」を示す「約束(シナリオ)」です。
-
売上予測は「頑張ります」ではなく、「客単価 × 客数」などの「計算式」に分解します。
-
その計算式の「根拠」(競合調査、市場データなど)を必ず準備します。
-
経費予測は「固定費」と「変動費」に分け、税金や賞与など「大きな支出」を見落とさないでください。
-
売上も経費も「現金が入金・支出される日」を基準(現金主義)に記入します。
-
「今回の融資返済額」を必ず支出に計上し、「月末残高が絶対にマイナスにならない」計画を作ることがゴールです。
これで、過去の実績から未来の計画まで、一本の資金繰り表が完成しました。
次回、【資金繰り表の作り方 第4回(最終回)】では、完成した資金繰り表を「融資面談でどう説明するか?」という活用法と、融資実行後に「経営にどう活かしていくか?」という、作成後の重要なステップについて解説します。
起業スタートビジョンラボでは、創業したての方向けに、日本政策金融公庫をはじめとした創業融資はもちろんのこと、幅広くトータルサポートを承っており、融資についてのご相談からご提案までさせていただいております。
気になる方は是非、お気軽にご連絡下さい。

