金融機関の融資審査にAIが活用される時代が到来します
これからの人間とAIの役割とは?
こんにちは!名古屋起業スタートビジョンラボです。
クライアント様との打ち合わせの際、私が元金融機関で融資担当(役席)だったお話をすることがありますが、「銀行の審査って、どうやって決まるんだろう…」「担当者によって判断が変わるって本当?」と聞かれることがあります。
まず、融資審査の大原則は「管理会計」と「財務会計」の組み合わせです。この両面から審査を行います。
とはいえ、審査はこれまで審査する側される側双方にとって、属人的な要素が強いものとも言われてきました。
担当者によってレベルの差が生じることも多く、クライアント様の事業に精通していないと判断が難しい案件もありますので、クライアント様から聞き出す力(コミュ力)も問われます。
しかし近年、この融資審査の世界に大きな変化が訪れています。それが、AI(人工知能)の活用です。
AIは、膨大なデータを瞬時に分析し、融資の可否を判断する新たなツールとして注目を集めています。
この記事では、融資審査におけるAI活用の現状と、AIが導入されることで何が変わるのか、そしてAI活用時代に経営者が備えるべきポイントを、専門家の視点から解説します。
AIが融資審査にもたらす3つの変化
皆さんは日常からAIを使っていますか?
とても便利で無料で使用できるAIもありますので、趣味から仕事までAIを幅広く利用している方も多くいらっしゃると思います。
そのAIが、これまで人間が担ってきた融資審査のプロセスを、より効率的で公平なものに変えようとしています。
1. 審査のスピードと効率が飛躍的に向上する
AIは、決算書や事業計画書、過去の取引データなど、膨大な情報を瞬時に処理できます。
これにより、これまで数日から数週間かかっていた審査時間が、大幅に短縮される可能性があります。
ここで金融機関の審査過程について簡単に説明します。
①金融機関の担当者がクライアント様から決算書をお預かりした後、本部の融資審査部へ決算書の登録依頼を出します。
②本部でクライアント様の決算内容を登録し、決算内容の数値化を行います。
③登録が完了した後、金融機関の担当者が登録データを見て、各勘定科目の数値に問題がないか、償還能力があるか、等の分析を行います。
私が在籍していた金融機関では、この段階で「実態バランス表」と「債務償還能力算定表」いう資料を作成しました。
④実態バランス表から、実質的な返済能力に問題ない事を確認し、本部への稟議(りんぎ)の作成を行います。
稟議(りんぎ)とは、組織内で意思決定を行うための手続きの一つで、10年ほど前までは紙ベースで行われていました。
今は電子化されたワークフローシステムを利用して、オンラインで回覧や承認を行う金融機関もあると思います。
⑤作成した稟議を本部へ提出 → 承認 → 融資実行 のプロセスとなります。
この中で一番時間が掛かるのが、本部への稟議と承認を得るまでのプロセスです。
決算内容の分析は、融資経験の浅い若手担当者の場合、決算書の読み込みが甘く、見落としがちな項目が続出します。
また、稟議内容と決算内容、償還能力算出の根拠等を審査部から確認されますが、当然のことながら非常に厳しくみられます。
この時に稟議内容に不備があったり、償還能力の証拠となる資料がなかったり、債務償還能力に疑義が生じたりすると、「不承認」として書類が差戻しされます。
実務においては、担当者(もしくはその上司)が事前に審査部へ償還能力に問題ない点や、融資実行の意義について説明をします。
所謂「根回し」というやつですね。
特に融資判断に迷うような難しい案件については、まずは融資決裁権限を持つ本部にお伺いを立てておくと、スムーズに事が進みます。
但し、事前相談の段階で、クライアント様の企業状況や償還能力等について、審査部から厳しいチェックが入ります。
そのため、事前相談の段階から本稟議に近いレベルの書類を作る必要があり、決算書に記載されていない情報もこの時点でまとめておかなければ、事前相談にすら行けないのが実情です。
案件によっては金融機関の営業店と本部を行ったり来たりする事となり、融資内容・金額によっては時間が掛かる案件も珍しくありません。
しかし今後AI活用することで、決算書の中に内包する問題点の洗い出しや、担当者の見落としや抜け・漏れのチェックを今まで以上に早く正確に対応できるようになります。
結果的に、審査スピードは確実に向上することになるでしょう。
特に、小口融資やスタートアップへの融資など、件数が多くなりがちな分野でその効果が期待されます。
2. 審査の公平性と客観性が高まる
AIは、過去の膨大な融資データから、返済が滞った企業の特徴や、成功した企業の共通点を学習します。
これにより、担当者の経験や勘に左右されることなく、客観的なデータに基づいた公平な審査が可能になります。
特定の業界や事業形態に対する担当者の偏見が排除され、より多くの企業に融資のチャンスが広がることが期待されます。
3. 「見えないリスク」を発見できるようになる
AIは、決算書には表れない「見えないリスク」を発見する能力も持っています。
たとえば、SNSの評判、Webサイトのトラフィック、業界のトレンドといった非財務データを分析し、企業の将来性や信用力を多角的に評価できます。
これにより、将来的なリスクを早期に察知し、より精度の高い審査を行うことが可能になります。
AI時代でも変わらない「人間」の役割
ただ、AIの活用が進んでも、融資審査から人間がいなくなるわけではありません。
むしろ、AI時代だからこそ、人間だけが持つ能力の重要性が増していきます。
1. 経営者との対話と「人柄」の評価
AIは、数字やデータは分析できても、経営者の「熱意」や「誠実さ」を理解することはできません。
面談で直接経営者と対話することでしか見抜けない、事業への覚悟や人柄といった定性的な要素は、今後も担当者の重要な判断材料となります。
2. AIの判断を補完する専門的な知見
AIの審査はあくまで過去のデータに基づいたものです。
新しいビジネスモデルや、前例のない革新的な事業については、AIが正確な評価を下せない場合があります。
このようなケースでは、担当者が業界の動向や経営者のビジョンを深く理解し、AIの判断を補完する専門的な知見が不可欠となります。
AI時代に経営者が備えるべきポイント
AIが融資審査に導入されることは、経営者にとって決して脅威ではありません。
むしろ、これまでの「どんぶり勘定」の経営から脱却し、データに基づいた経営へとシフトするチャンスです。
特に重要なのは、以下の3つの点に明確に答えられることです。
1. なぜ融資を「借りる」のか?(融資の理由)
AIは、あなたの事業が抱える課題をデータで分析します。
その上で、「なぜこのタイミングで融資が必要なのか」という理由が論理的であるかを判断します。
たとえば、「人件費の増加で資金繰りが苦しい」といった漠然とした理由では、AIも人間も納得できません。
「AIを搭載した新システム導入のため、〇〇円を借り、業務効率を〇%向上させることで、人件費を〇%削減する」というように、具体的な解決策と結びついた理由を説明することが不可欠です。
2. いくら「借りる」のか?(融資の金額)
AIは、あなたの事業規模や収益性から、適切な融資額を弾き出します。
「とにかく多めに借りておこう」といった安易な考えは、AIにも見抜かれます。
「新システム導入費用〇〇円、導入後3ヶ月分の運転資金〇〇円、合計〇〇円必要です」といったように、金額の根拠を明確に示しましょう。
AIは、あなたの計画に無駄な支出がないかを細かくチェックします。
3. 融資によってどんな「効果」があるのか?(融資の効果)
最も重要なのは、融資によって事業がどのように成長し、その結果として確実に返済できるかを示すことです。
AIは、あなたの計画が過去の類似データと照らし合わせて、どれだけ実現可能性が高いかを判断します。
「融資によって生産性が〇%向上し、売上が〇〇円増加、その結果、〇年後には利益が〇〇円になり、〇年で完済できる見込みです」というように、融資の効果を具体的な数字で示すことが、AIと人間の両方を納得させる上で不可欠です。
まとめ
金融機関の融資審査におけるAIの活用は、今後さらに加速していくでしょう。
しかし、AIはあくまで「ツール」であり、最終的な判断を下すのは「人間」です。
AIが分析する「数字」を正確に整え、人間だけが伝えられる「想い」を明確に伝えること。この両
輪をバランスよく備えることが、AI時代の融資成功への鍵となります。
名古屋起業スタートビジョンラボでは、AI時代の融資審査に対応するための事業計画作成や経営相談を承っております。
ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。